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「 LIFE と life 」永井一正と永井一史の二人展〔past〕

2024.4.18(木)

会期:2024年4月18日(木) – 2024年5月12日(日)
会場:OFS GALLERY
OPEN:12:00 – 20:00 ※最終日は18:00まで
CLOSE:火・水
入場料:無料

親子で「デザイン」という大きなフィールドに立ちながら、全く異なったアプローチでクリエイティブの解釈を広げ続けてきた二人。永井一正は、幾何学的な表現からグラフィックデザイナーとしてのキャリアをスタートさせ、具象的な動物を描いたことをきっかけに作風を大きく転換させた。いのちを追求するLIFEシリーズは既に30年以上も続くライフワークとなっている。

一方、永井一史は、広告会社を経て2003年にHAKUHODO DESIGNを設立。概念をデザインすることに価値と面白さを見出し、ブランディングを中心に仕事をしている。それぞれの道に大きく関わってきたであろう、時代とともに流れる価値観の変化、そして親子としての関係性。「昔、田中一光氏から親子企画をやりたいという打診があったのだが、自分に実績もなく断ったことがずっと心に残っていた。長くLIFEシリーズを見てきて、自分だったらどう表現するだろうと思った。」と今回の企画が生まれた経緯を永井一史は語る。

今だからこそ開催が実現した本展では、普遍的なモチーフをテーマに、新作ポスターや映像作品、対話のテキストなども通じて、解釈の相違点と共通点、二人の関係性をあぶり出していく。それぞれの文脈で紐解かれる「LIFEとlife」をどうぞお楽しみください。

■ お二人から展示へ向けて

<永井 一正>
私は1951年からグラフィックデザインをはじめ、抽象的で宇宙を感じさせる空間を表現した制作を続けることで自分のスタイルを追求していった。しかし1986年に、生き物たちを登場させた。これまでの自分の積み重ねを捨て去るぐらいの大きな決断であった。それが今回の展示しているポスターである。今回発表の最新作まで、動物を描くLIFEシリーズは40年近く続くライフワークとなっている。
LIFEというテーマを突き詰めてきたのは、幼少のころから体が弱かった自分自身を鼓舞するためであり、命の不思議さに魅せられたからである。また地球環境の悪化によって、いきものの生命が脅かされている現在、共生の大切さを感じてもらえばという願いを込めている。動物たちは、リアルな姿としてではない生命の象徴として、自由にプリミティブに描くことで、生きることを直截に訴えられないかと思い制作している。今回、貴重な機会をいただきありがたく思っている。

<永井 一史>
最初にデザインを意識したのは、5-6歳の頃だと思う。父の仕事を見て楽しそうだしこれなら自分もできると思って、紙にデザインを描いたことを憶えている。しかしそれ以降は、デザインとはまったく疎遠になった。再びデザインに目覚めたのは、高校3年のときであるから、デザイナーの中では、かなり遅い方である。広告会社に入り、2003年に会社を立ち上げ現在はブランディングを中心に仕事をしている。会社に入って少しして、田中一光氏から、親子の展示企画の打診がきたことがあった。その時は、自分に実績もなく、お断りしてしまった。ただ、そのことが今に至るまで、心に残っていた。世界的なグラフィックデザイナーである父とLIFEというテーマのポスター制作で向き合うのは、無謀な試みかもしれないが、ひとつのチャレンジとして見ていただければと思う。


■ プロフィール

1929年大阪に生まれる。1951年東京藝術大学彫刻科中退。1960年日本デザインセンター創設に田中一光らと共に大阪から参加。1975年に代表取締役社長就任、現在は最高顧問。JAGDA 特別顧問。札幌冬季オリンピツク、沖縄海洋博、茨城県、新潟県、JA、アサヒビール、三菱 UFJ フイナンシヤルグループなどをはじめとしたマーク、CI、ポスターを多数手がける。80年代後半より、動植物をモチーフとした 「LIFE」シリーズをつくりはじめ、2003年より銅版画へと展開する。東京ADC グランプリ、亀倉雄策賞、毎日デザイン賞、毎日芸術賞、 芸術選奨文部大臣賞、紫綬褒章、旭日小綬賞、姫路市文化芸術大賞、ワルシャワ国際 ポスタービエンナーレ金賞、ブルノ国際グラフィックビエンナーレグランプリなど 国内外での受賞多数。また作品は、東京国立近代美術館、富山県立近代美術館、ニューヨーク近代美術館、メトロポリタン美術館など世界20力国以上の美術館に所蔵されている。


HAKUHODO DESIGN 代表取締役社長、多摩美術大学教授。多摩美術大学美術学部卒業後、博報堂に入社。2003年、デザインによるブランディングの会社 HAKUHODO DESIGN を設立。様々な企業・行政の経営改革支援や、事業、商品・サービスのブランディング、VI デザイン、プロジェクトデザインを手掛けている。また 2012年より、多摩美術大学において、領域を横断するデザインを教える統合デザイン学科にて教えている。2015年から東京都「東京ブランド」クリエイティブディレクター、2015年から 2017年までグッドデザイン賞審査委員長を務める。経済産業省・特許庁「産業競争力とデザインを考える研究会」委員も努めた。代表作に、ヘルプマーク、サントリー伊右衛門、TOKYOTOKYO、森ビル、ユーハイムの仕事がある。クリエイター・オブ・ザ・イヤー、ADC賞グランプリ、毎日デザイン賞など国内外受賞歴多数。著書に『博報堂デザインのブランディング』『これからのデザイン経営』など


■ 関連イベント:「原研哉 × 永井一史」トークセッション

現在日本デザインセンターの社長である原研哉氏は、日本デザインセンターの創業メンバーである永井一正と長い時間を共にしてきた。ある意味、最も永井一正を直近で見てきたデザイナーである。同時に、永井一史とは、同時代のデザイナーであり、プライベートにおいては、10年来の茶道の仲間でもあるという。このトークでは、永井一正の本質は何なのか?永井一正、永井一史の違いは何か?果たして共通するものはあるのか?など、時代背景や、仕事のフィールド、価値観の違いなどを中心に、原研哉氏に永井一史が尋ねていく。

日時:4月22日(月) 18:30~
会場:OFS GALLERY
出演:原研哉、永井一史
料金:無料
定員:30名 (ご予約制)
※当日の様子は公式Instagramのアーカイブよりご覧いただけます。

@ofs_tokyo

寄稿文「生と宇宙と私」 原研哉

永井一正の毎年の成果を、息をのみつつ、おそるおそる見守っている。生と宇宙の深淵を見つめる感覚はますます研ぎ澄まされ、その仕事は毎年、間違いなくその到達点の標高を上げている。
永井一正は正対して生と宇宙を見つめている。茫漠と眺めるのではなくぴしりと焦点があっている。一連のポスターは何かを伝達するというよりも、生命を携えて生きる人間が、勇気を持ってその歩みを進めるために眺める方位磁石のようなものだ。北を指す方位磁石の先に北極星が輝いているのを見ると、安心の糧を得て救われたように感じる。永井一正の作品は、それと同じような作用を鑑賞する人々の心にもたらせる。
人間も含めた地球上の生物は、地球からちぎり取った餅のようなもので、その組成や成分は地球と同じようなものだそうだ。つまり海の表面張力や重力を脱して宇宙へと飛び出すことができず、地表にとどまっている微少なる衛星のようなものらしい。この極小の衛星はいつの間にか自己複製して存続していく生命となったようだが、この生命がより効率を求めて自己保存を繰り返すうちに、いつしか「私」という意識が生まれてきた。「生」と「私」は同じものではなく、「私」は「生」が存続するために自然発生してしまった付属物らしいのである。しかし「私」はそうは考えず「私」を中心に宇宙を見てしまうという誤謬を犯す。そして「私」は「私」の都合や快楽を追求し、自意識を中心に宇宙や環境をとらえようとするので、永遠に宇宙の本質や生の本質を見失っているのである。
永井一正の作品を見ていると、この誤謬から解き放たれていくように感じる。「生」は「私」を離れてむしろ「生」同士が連鎖共鳴しており、その連鎖の果てに宇宙と呼ぶべきものの本当の広がりが感じられてくるのである。
永井一正の作品に、横たわる人間から大きな樹木のような植物が生えているシリーズがある。人から生えた樹は見事に美しく葉を繁らせており、たわわに実をつけていたりもする。その繁りや実りの謳歌を、永井一正は、肉筆の、優しくも執拗な筆致で描いている。修練を積んだ筆致というよりも、上達することを巧みに回避し、むしろ無垢なる幼児性を指向するように感じられる筆致は、その純粋さで見るものの感受性を素の状態へと還元してくれるかのようだ。描かれた植物の美しさは、人の「生」を養分としており、見方を変えると死者から生えたようにすら見える。しかし、その樹々の茂りが深く美しいほどに、不思議な感動を呼び起こされて、見る度に泣きたくなるような衝動に駆られる。それは「私」の根源をなす「生」のリアリティへの感応であり、「私」を超えて宇宙を繁らせる「生」の躍動に「私」が目覚めさせられていくからに他ならない。
宇宙は、生成することと朽ちること、生と死が渦巻く大きなエネルギーの総体であるが、そこには確固としたリズムがある。一方で「私」を起動させる「生」の中にも同じく小さな宇宙がありリズムがある。宇宙から私の生へと打ち寄せてくる波を感じつつ、私の生から宇宙へと打ち返す波をも感じる。そんな私と宇宙の波打ち際で、永井一正が見ている光景が一連の作品であろう。
  2013年の暮れに、永井一正の心臓は一度止まったそうだ。おそらくは「宇宙」と「私」の波打ち際を彼方から見通すような経験だったに違いない。この経験を越えて、永井一正はさらに創作に向き合い、意欲の衰えはない。一層の純度を増すかもしれない一連の仕事は、もはや奇跡の領域である。


<プロフィール>
原 研哉 / はら けんや / グラフィックデザイナー
1958年生まれ。グラフィックデザイナー。日本デザインセンター代表取締役社長。武蔵野美術大学教授。
世界各地を巡回し、広く影響を与えた「RE-DESIGN:日常の21世紀」展をはじめ、「HAPTIC」「SENSEWARE」「Ex-formation」など既存の価値観を更新するキーワードを擁する展覧会や教育活動を展開。また、長野オリンピックの開・閉会式プログラムや、愛知万博のプロモーションでは、深く日本文化に根ざしたデザインを実践した。
2002年より無印良品のアートディレクター。活動領域は極めて広いが、透明度を志向する仕事で、松屋銀座、森ビル、蔦屋書店、GINZA SIX、MIKIMOTOなどのVIを手がける。外務省「JAPAN HOUSE」では総合プロデューサーを務め、日本への興味を喚起する仕事に注力している。2019年7月にウェブサイト「低空飛行」を立ち上げ、個人の視点から、高解像度な日本紹介を始め、観光分野に新たなアプローチを試みている。著書『デザインのデザイン』(岩波書店、2003年)、『DESIGNING DESIGN』(Lars Müller Publishers, 2007)、『白』(中央公論新社、2008年)、『日本のデザイン』(岩波新書、2011年)、『白百』(中央公論新社、2018年)など著書多数。
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