2022年5月13日(金) ~ 7月3日(日)
吉田ユニ『THE MOMENT』 会期:2022年5月13日(金) ~ 7月3日(日) 会場:OFS gallery (OUR FAVOURITE SHOP 内)
吉田ユニ「THE MOMENT」〔past〕
数々のファッションブランドや雑誌、広告、アーティストのビジュアルを手がけ、国内外 で活躍の場を広げるアートディレクター、吉田ユニさんの新作展示がOFS galleryで開催さ れました。7/1(金)にはその制作の舞台裏を語るトークイベントも開催。その様子をほんの 少しだけご紹介いたします。 “ひとつとして同じ形がなく、唯一無二の個性を持つ「植物」。 その一瞬(=THE MOMENT)の美しさを何かの形に残したい” そんな吉田ユニさんの思いから生まれた今回の企画展示。 会場には全部で12のアートワークが展示されました。 トークイベントには、吉田ユニさんと、お花や植物を使った作品づくりを支えてきた フローリスト「te-n.」の渡邉直子さんが登壇。エディター・横田可奈さんの司会進行のもと、 その独創的な世界をどのように作り出しているか、お話してくれました。
お花をいけたフラワーベース、切っ先鋭い安全ピン、 落としてとろけたアイスクリームetc…
本物のフラワーベースなの? それとも本当にお花が生えているの? 戸惑うほどの緻密なクリエイションで、会場を訪れる方皆さんが「一体どうやって作っているの?」 「精巧すぎて絵かと思いました」と感想を漏らすほど。 トークイベントでは、その制作のプロセスも紹介されました。 たとえば、ユニさんと渡邉さんの後ろに飾られた安全ピンをモチーフにした作品。 これはチューリップの花と茎で作られたものですが、きれいな円を描くために、茎にワイヤーを入れているそうです。 こちらの香水瓶やケーキをモチーフにした作品は、観葉植物の植木鉢から根っこの塊を抜いて土台を削り出し、別の鉢から採取した根で模様を描いたもの。上に咲くお花や葉っぱもまた別の鉢から移植し、様々なパーツを組み合わせて完成させています。 「地面からお花がいきいき生えている感じも大事にしたくて。それが自然に見えるように、あえて花と葉も別の植物のものにした作品もあります」(ユニさん) たとえば奥のケーキのお花は、赤いラナンキュラスのつぼみですが、葉っぱは全く別の植物のもの。制作前に、お花や葉っぱの形を何パターンも見比べて、よりユニさんのイメージに近いもの・自然に生えている様子に近いものを選ぶのだそうです。 こうした作品づくりを支えるパートナーが「te-n.」の渡邉直子さん。 作品のラフを見ながら顔を突き合わせて話し合い、 どんなお花がイメージに合うか? この季節ならどんなお花があるか? それを使ってどう表現するか? 自身の経験や知識をもとに一緒に考え、アイデアを提案してくれるそうです。 たとえば、アイスをモチーフとしたこの作品。 「アイスが溶けだしたラフを見て、平たいシルエットのお花をイメージしました」 と渡邉さんが選んだのはスプレーバラ。繊細な花びらが散る様子は、とろけて崩れたアイスのイメージにもぴったり。しかもこの花の名前は「グリーンアイス」。偶然にも名前までぴったりの素材でした。 ユニさんのイメージを把握すると、まずは花市場に直行。 一軒一軒のお店をたずね作品イメージに合う花材を探します。 今回の企画では、ずっと「根っこ」をチェックしていて、花市場の方にも「次は何を作るの?」と不思議そうに尋ねられたとか。 もし市場でめぼしい花材が見つからなければ、地方の生産者に問い合わせをすることも。 生産者とのつながりも大切な役割で、過去には長野まで引き取りに駆けつけたこともあるそうです。 そうして集めた花材を、撮影当日は、てきぱき生けて形を整え、撮影! お花は生き物。時間が経つにつれて、みずみずしさが失われていくので、時間が勝負。 まさに一瞬を切り取るための作業です。今回の撮影でも、ユニさんと渡邉さん、そして美術家とカメラマンが力を合わせ、1日で造形から撮影までやりきったそうです。 この日は2人が一緒に手掛けたアートワークを他にもいくつか紹介いただきました。 LUMINE ショーウィンドウビジュアル「BLOOMING JOY」(2021)では、お花でスポットライトを表現。 光が混ざり合う部分を自然に見せることが重要で、ぴったりの色味の花材を集めるために、渡邉さんが奔走しました。 『装苑』の連載企画では、花束がドクロになったビジュアルを制作。 「なるべく繊細な花で、綺麗な表現をしたい」というユニさんのオーダーを受け、たくさんの種類のお花を蒐集。 持ち上げるとすぐに植物が垂れてしまうので、撮影の直前1時間ほどで一気にアレンジをされたそうです。 トークの最後には、おふたりが互いの作品作りへの姿勢についてコメント。 「ユニさんのアートワークは、奇をてらったものではなくて、いつも自然の中・日常の中にあるものがモチーフになっているんです。 みんな見たことがあるはずなのに、そんな風にアレンジできるなんて思わなかった!と驚くものばかり。 だから私もお花を選ぶときには変わったものではなくなるべく皆さんが知っているものを…という視点で選んでいます」(渡邉さん) 「私がビジュアル作りに一生懸命になるように、渡邉さんも花に対して一生懸命になれる。 そこに通じるところがあるなと感じています」(ユニさん) また、今回の展示のテーマである植物や花についても、こんな風に語ってくれました。 「花は命あるもの。そして、ひとつとして同じものがない存在です。そんな存在が作品に入ることで、温かみが加わり、 一瞬のその姿に生命を感じられるんだと思います」(ユニさん) 「花屋って”心”の仕事なんです。人ととても近い仕事。ユニさんはそういう部分を潜在的 にわかってくれていて、それをアートワークで表現してくれている気がします」(渡邉さん) 花や植物は、時間が経つにつれて、枯れて形を変えてしまうもの。 そんなはかなさを秘めつつも、生き生きと咲く姿には命の美しさが宿っている。 その一瞬を切り取るために、ユニさんや渡邉さんをはじめ、何人ものクリエイターが膨大 な熱量を注ぎこんでいるからこそ、そのアートワークが私たちの心を惹きつけて止まない 1枚になっているのかもしれません。