海太郎さんの音楽は、いわゆるインストゥルメンタルに感じる印象とも異なって、物語的だけど決して押し付けがましくない。他の誰とも違うけれど、なんだがとても耳馴染みが良く、いつまでも聞いてらいれる。なんて個人的に思っているのですが。(つまり海太郎さんの音楽がとても好き!) 愛用品は、まさに「音楽家」を感じさせるチョイスながら、 海太郎さんの「音」を捉える視点を見せてもらった気がした今回の取材。 ・カワイ アップライト型トイピアノ ・Wittner メトロノーム・タクテルスーパーミニ ・AKG スタジオモニターヘッドフォン K240
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昔からトイピアノを扱うカワイさんでは、他にもグランドピアノ型の商品も出されているのですが、5年程前に発売されたこのアップライト型は、圧倒的に音が違うのだそう。 カワイのトイピアノはきちんとした精度の音階、音程で並んでいることでも評価が高く、玩具といえど大人の顔を持つピアノに、「可愛いだけじゃない。それってちょっとドキッとするなぁ」なんて、まるで恋しちゃっているかのように語る海太郎さん。 「弾き続ける事で音が育っていくような気がする」という台詞にも、ぐっと興味は惹きつけられたけれど、鍵盤を鳴らしては、少年が昆虫を観察する時のような眼差しで、ピアノの中で生まれる現象にじっと耳を傾ける海太郎さんの姿には、何が起きているの?と、こちらも気になって仕方がなくなりました。 振り子式のメトロノーム。 持ち運びできる手軽さも勿論だけど、木のボディに響く音の心地よさに着目する海太郎さん。 電子音とは違い、演奏される楽器の音にまぎれず、きちんと耳に届く音色。ずっと聞いていられるコチコチと刻まれる音は、一緒に演奏しているようにさえ感じると言います。 ここにも、メトロノームを音楽の協力者として捉えている彼ならではの視点が。 もう3台も使っているという、スタジオモニターヘッドフォン。 ヘッドフォンの規格は、厳密に分かれているわけではないらしいですが、 「スタジオモニター」と呼ばれるのは、ミュージシャンやエンジニアの使用を想定して作らているものだそう。 最近リスニング用に作られている、重低音やハイレゾ(広い音の周波数をカバーする)ヘッドフォンと違い、なるべく作り手の意図が「忠実に」「フラットに」伝わるように作られていて、脚色のない音を再現してくれるとのこと。 セミオープン型で、外の音が漏れ聞こえる点は弱点にも感じられるのですが、 録音現場という作られた空間に於いて性能の高いとされる密閉型のヘッドフォンでは、逆に音が痛いと感じるのだそう。 日常で耳にする音は、外部を遮断した空間にあるわけではない。と考える海太郎さん視点が、このヘッドフォンのチョイスからもうかがえます。 海太郎さんの音楽は、私たちが身を置く場所で起きる音を無視しない。だからこそ、聞いていると包み込まれるような、生活の中でも心地よく溶け込む音楽が生まれるのかもしれません。 ヨーイドンからゴールまで、始まりと終わりのラインが決めれられている音楽。 刻まれたリズムや時間と対峙する事の多い海太郎さんにとって、美術館巡りが自分をリセットしてくれる大事な時間だそう。 訪れる人の時間を受け入れ、待ってくれる空間。 そんな広がりのある空間で捉えた感覚が、海太郎さんの音楽に立体的な厚みを持たせてくれているのでしょうか。 阿部海太郎 作曲家。すぐれた美的感覚と知性から生まれる音楽表現に多方面より評価が集まる。舞台、テレビ番組、映画、様々なクリエイターとの作品制作など幅広い分野で作曲活動を行う。音楽を手掛けた作品に、インバル・ピント&アブシャロム・ポラック演出「100万回生きたねこ」「百鬼オペラ 羅生門」、長塚圭史演出「イヌビト」、NHK「日曜美術館」テーマ曲、映画「ペンギン・ハイウェイ 」など。今年10月に6枚目のアルバム「Le plus beau livre du monde 世界で一番美しい本」が発売される。アートディレクションはKIGIの植原亮輔と渡邉良重。
https://www.umitaroabe.com/ インタビュー・文:寺田未来(KIGI / OFS店長)