誰も考えつかないようなアイデアで数々のプロジェクトを立ち上げてきた遠山さん、出会ってきた品々の中にも秀逸なものは少なくなかったであろう印象。 実は、そんな遠山さんの愛用品となれば、どんな珍しいものが挙げられるのだろう?と思っていたのですが、そのチョイスは少し意外なものでした。
・ストレッチブロードの白い開襟シャツ ・サウナパンツ ・DANSKO の靴 ご紹介している商品はOFS ONLINE SHOPでもご購入頂けます
DANSKO(ダンスコ)の靴でこそ、クリエイターに愛用されているイメージがあるものの、白い開襟シャツは、元はカフェなどの制服として製作されているもの。 そして緑のパンツは、なんと遠山さん愛用のサウナで配られる室内着。
けれど、そこはやはり遠山さんチョイス。 開襟シャツについては、製作している企業に伺ったところ、BtoBからBtoCへのアプローチも考えて作ったモデルだそうで、少しゆったりとしたシルエットが制服っぽさを払拭したデザイン。(それを遠山さんが知ってのチョイスかは定かではありませんが。) 遠山さん曰く、インナーにはTシャツではなくタンクトップをあわせて、首回りの肌をみせるのが、ちょいワルに着こなすコツだそう。 また、緑のパンツは、遠山さん行きつけの男性専用サウナ・アスティルが、サウナを利用するお客様が居心地よく過ごせるようにと、自社製作しているアイテムで、某有名企業からも一時発売されていたドライメッシュ素材ながら、その価格はなんと1077円。 利益度外視で生産しているパンツは、さらっとした肌触りが心地よく、洗ってもすぐに乾いてくれる優れもの。
DANSKOについても、愛用の理由は「楽ちんさ」。コンフォートシューズというと硬い印象があるけれど、この履きやすさを体験したらもうスニカーなんて履いていられないらしい。 撮影の日「急いできたから間違えて履き古したほうを履いてきちゃった」という言葉からも、日常から意識しないで足を通しているのが伺える。 スニーカーより楽な靴なんてあるの?と半信半疑ながら、それが本当かどうか(もそうだけど、何より愛らしいフォルム)是非、試してみたい。
取材中、時間を重ねていくと多くの人たちがそうであるように、あらゆるコンテンツに携わってきた遠山さんもシンプルさに戻っていくのか、位の単純さで(失礼ながら)お話を伺っていたが、「今の遠山さんの日常に欠かせないものは何?」と質問して返ってきた答えに、その考えは色を変えた。 「北軽井沢の家で過ごす不便で孤独な生活」 軽井沢の駅からバスで40分、徒歩で30分(自転車で10分)。 昨年所有してから、週末ごとに訪れるようになったという「不便」な家は、谷川俊太郎さんが、1974年に建築家の篠原一男さんに詩を渡して建てた、という建築家業界では神格化されているような建物。 彫刻とも言われるその家自体のデザインが素晴らしく、あまり物を置く気分にはなれず、照明さえもつけずに暮らしているそう。 ゆえに陽の落ちた9時半には眠くなり、カーテンもない部屋に差し込む朝日で5時には目覚める。 朝の散歩を日課に、庭の雑草を刈ってみたり、甘酒や生姜湯を片手に椅子に座って過ごす時間。 1ヶ月後には、ようやく森の鳥たちが遠山さんを共存相手と認識したらしく、餌をもらいに飛んでくる。聞かせてくれた森のサウンドは、あまりに解像度が高く立体的で、逆に作られた効果音みたいに聞こえる。そこでの澄み渡る空気が音を通して伝わってくるよう。 https://ofs.tokyo/wp/wp-content/uploads/Tanikawa-House-朝.m4a 何もないようで、五感が全て満たされていく時間。 そんな生活が、「シンプルで機能的」「使い勝手が良く気を使わない」「楽ちん」といった、必要以上にあるべき姿を邪魔しないものへのチョイスに行き着いたのでしょう。 そしてその「何もない」「不便」さが、むしろ遠山さんの持つクリエイティビティを活性化させているようで、また新たなる構想が本格化してきた様子。 今年9月から始動したという、新しいコミュニティのかたち「新種のimmigrations(イミグレーションズ)」では、今、自身が体験していることを共有したいと、会員を募り、代官山に構えたスタジオを開放したりと、活動を広げていっている。 遠山さんの愛するシンプルなものと、不便で孤独な時間の積み重ね。 それが、これから生まれる可能性をより興味深いものにしていく予感がします。
遠山正道 慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、 ネクタイ専門店「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」などを展開。「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、現代の新しい生活の在り方を提案している。近著に「やりたいことをやるというビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡」(弘文堂)。最近では、もっともシンプルな結婚の在り方「iwaigami」、小さくてユニークなミュージアム「The Chain Museum」、アーティストを支援できるプラットフォーム「Art Sticker」などをスタート。 インタビュー・文:寺田未来(KIGI / OFS店長)