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「バイヤーとデザイナーのデザイン談義」山田遊×キギ (植原亮輔・渡邉良重)トークショーレポート(後編)

2016年4月27日 (水) ~ 6月26日(日)

現在、OFSgalleryと国立新美術館内SFTギャラリーの2会場にて同時開催されておりますKIGI_M_exhibition「キギの作品と、商品と、しごと。」展。

その関連企画として先日、method 山田遊さんをお迎えしてのトークショーが開催されました。

和やかな雰囲気の中でも興味深く語られた充実のトーク内容を記事にしてお届けします。


後編の今回は、グラフィックデザイナーが考えるプロダクトデザイン、そしてこれからデザインのブームなど、デザインから現在の流れを読み解きます。


 

前編はこちらからご覧頂けます。

 


■グラフィックデザインの文脈でのプロダクトデザイン


 

山田 少し全体的な流れを考えてみると、日本にもたとえば「デザイナーズマンション」とか、iPhone出現前の「デザイナーズ携帯」とか、だいぶ前のように感じますけど意外と近くに「デザインブーム」みたいな時代がありましたよね。そのブームが終わってからここ10年くらい「手仕事」であったり「工芸」であったり、「暮らし」「日々」「生活」「ていねいな」とかをキーワードしたような、どこでも作家ものの器の展示をするような時代になりましたが、その流れが少しずつ変わろうとしています。工芸的というよりはもう少し工業的で、あたたかみというよりはよりデザイン的というかすっきりしてシンプルなものに、素材を重視し、追求することはそのままに、より洗練された方向に少しずつ向かっているのかなというのをなんとなくですけど感じています。作家による工芸品というよりはちょっとだけ量のあるような、でも大量生産というほどではない、もう少し職人寄りというか、ちょっとインダストリアルなものというか。でもとにかくいまは「メイドインジャパン」ブームですよね。デザインの文脈というよりは日本でのトレンドですけど。

渡邉 あ、「日本では」なんだ?

山田 そう、日本では。

植原 僕らもマザーレイクプロダクツとの「KIKOF」だけでなく、「UMEBOSHI」っていうプロジェクトにも関わっていて、それはWISE・WISEさんがいろんな職人さんとものづくりをしているんだけど、彼らが企画してくれたKIGIと伝統工芸とのコラボレーションなんです。

山田 僕もそういうお仕事とか話がすごく多いんですよね。雑誌とかで、メイドインジャパンのいいものを選んでくださいとか。でも正直、飽きてるんですよ。日本人なんでいいものはいいって思うんですけどね。「デザイナーズマンション!」って言ってたのが「日本の職人モノ!」って言っているような気がして……、なんかブームってあるんですよね。僕は本当にへそ曲がりなんで、「日本」「日本」ってあまりにみんな言っているからいやになっちゃって(笑)。たぶんそれも2020年まででしょうけど。最近はその先のことをいろんな人と話しています。

そういったことで考えると、日本のプロダクトデザインの文脈とか流れのなかでは、お二人の存在あるいはD-BROSっていうブランドの存在は非常にでかかったと僕は思っているんです。それはいい部分も悪い部分も持っていて。僕も、D-BROSがぽーんと出てきた時には、おおーっと思ったんですよね、プロダクトの文脈とは全然違うプロダクトが出てきたなと。

渡邉 フラワーベース(「hope forever blossoming」)が出たころ?

山田 カップ&ソーサー(「MIRROR」)ですかね。

渡邉 それは同じ年(2003年)だ。

山田 初期の頃ですよね、フラワーベースはもういまや代表的なプロダクトだと思うんですけど。なんていうかな……うーん…。

渡邉 ぶっちゃけで。

山田 僕は基本的にデザインオタクだし、バイヤーだし、いろんなものを知っているっていうのがあるんで……、そうした時に、やっぱり近いモノがあったりするんですよね。最初にD-BROSのフラワーベースが出てきた時には、これドリアデにあるじゃんって思ったんです。でも、ひとの発想とかそういうものってかぶるじゃないですか、パクるっていうんじゃなくって。で、よくよく見ていくうちに、その発想のもととかが感じられてきて、あ、違うものだなって気づいた。継続していくなかで超えていくこともあると思うんです。僕は、お二人の背骨はやっぱりグラフィックデザインだと思うんですけど、そのグラフィックデザインの文脈でプロダクトデザインをされているんだなっていうことをすごく理解したんです。特にお二人はいつもそこがぶれてないなって思います。

渡邉 「いい部分も悪い部分も」の悪いのは?

山田 それをプロダクトデザインだと勘違いした子たちが非常に多いなと思いまして(笑)。僕はわかっているつもりだし、D-BROSのみなさんとかドラフトの方もわかってると思うんですけど、あれは、あくまでグラフィックデザインの姿勢として、グラフィックデザイナーとして、プロダクトデザインするんだったらこういうことだっていうのをしっかり意図されてやってる。だけど、「これがプロダクトデザインなんだー!」っていうふうに受け取った子たちは多いだろうなって思って。

植原 プリントものは増えたよね。

渡邉 なんかできちゃいそうだしね。

山田 そうそう、紙でブランドを作るひとが多くなったじゃないですか。型代も紙だったらなんとかなるとか。

植原 素材の追求とか、そこまでいらないしね。

山田 そういう意味では、プロダクトデザインでもなくグラフィックデザインでもなく、なんかよくわかんないけど「デザインっぽい雑貨」っていうのが、その頃から増えだしたかなと思っていて。ギミック、インパクト勝負みたいな。それはさっきの話に戻るんですけど、受け取り手の咀嚼だと思うんですよね。じゃあD-BROSのものはどういう意図やスタンスのもとにデザインされているか、っていうところの読み取り方。それを、これがプロダクトデザインだっていう読み取り方をしちゃうと、ちょっと不幸なことが起こるなって思っていて。

一方で、良き点もすごく多かったと思うんですけどね、プロダクトデザインの視点からいうとすごく新鮮だったし、こういうやり方でのプロダクトってありなんだっていう一つの見え方になったと思う。なんですけど……、なんかどっちもどっちですよね。

植原 プリントしてプロダクトをぼんぼん作れちゃうみたいなことの反動で、手仕事とか職人さんみたいな話にもなっているでしょう?

山田 時代的にはたしかにそうなんですよね。D-BROSが出てきて数年でそういう時代になったのは事実です。でも、そろそろそういう手仕事感が少しずつ飽きられているというか、もうちょっと洗練されたデザインとして研ぎすまされたものに向かう時期がきている感じがするので、デザインが注目された時代にゆっくりともう一度戻りつつあるのかなというのが、ここ数年で感じていることではあります。僕はかなりコンテンポラリーなデザインが好きなので、それがこないと困る! みたいなところもありますけど。このまま、あたたかみとかばっかり言われても困る(笑)。ファッションのトレンドじゃないですけど、ゆっくり繰り返していったりするものだと思うんで、デザインがまたもう一度注目される時代になった時に、お客さんとか市場とか僕らみんながどういう成熟のしかたをしていくかっていうのは興味がありますね。


 


■今後のブーム⁈


 

山田 ブーム的な話で言うと、最近密かに注目していることがあるんです。僕がデザインをかじりはじめたころ、最初にあったデザインブームというと「イームズ」だったんですよね、「ミッドセンチュリーブーム」的な。イームズって、西海岸の50年代、ミッドセンチュリーの文脈のものなんですけど、いま日本ではロンハーマンがやたら売れていたりします。つまり西海岸的な文脈が一周してまだまだきているんですね。

渡邉 へぇー。

山田 一方で、いまや定着しちゃってますけど「北欧のデザイン」みたいなブームもあった。で、同じ頃にあったもので一つだけ消えちゃったものがある。それが「アジアンブーム」なんですよ。バリの家具とか、蓮の形のキャンドルを水に浮かべたりとかしませんでした?

植原 あー、あったね。

山田 アジアンブームだけが消えちゃったんですよね。目黒通り全盛期なころです。あそこらへんはいまじゃ全然元気ないですけど。でも僕がいま注目しているのは「アジア」なんです。

植原 そうなんだ。またくるんじゃないかと?

山田 いま日本にはアジアからの観光客がものすごくふえているじゃないですか。で、すごく乱暴な言い方をすると、いまのところは「これは日本のものです」って言って彼らの国にはない日本のものを買ってもらっている気がするんです。でも、そのうち日本の人達がアジアのほかの国の人達に合わせてものづくりを始めるんじゃないかなって。そういう時代が結構迫っているんじゃないかなと思っているんです。

渡邉 それはそういうアジアからのお客さんに買ってもらうためのもの?

山田 ある意味そうです。それは、媚びているっていうんではなくて、ただ……生活様式に合わないものが多々あるんですよ。わかりやすいもので言うと、たとえば漆器のお椀を使うのって日本人だけなんですよね。海外にはお椀文化がないので。

渡邉 へえー、そうなんだ。

山田 だから海外の人は僕らが日々使っているお味噌汁のお椀なんかは買わないんですよ。

渡邉 なぜ使わないの?

山田 食文化の違い、食生活の違いだと思うんですけど、僕らにとってはあんなに当たり前のようにある漆のお椀とかは海外の人からしたら使い道がないんです。

渡邉 スープとかもダメ?

山田 とは思うんですけどね(笑)。だから最近思っているのは……、国内で人気のある工芸作家さんがアジアなどで展覧会をされることが多くなってきたんですが、そういう時には「日本のものが最高だ、日本のものがいい」っていうだけのやり方ではなく、やっぱりローカライズ化していくんですよね。だから、あっちで展示をするという時にはそのまま持っていくんじゃなくて、たとえば茶文化が成熟しているからその国の文化に合った茶器を作っていくとか、家具とかでも中国式なものに日本の漆塗りでいくとか、そういう新しい解釈をしたものが必要になると思うんです。TIME & STYLEさんの新作もすごくシノワズリ的というか、そういうスタイルのものが多いんですよね。あれ、これは純日本式ではないな、と。でもヨーロッパではなくて、ちょっとエキゾチックだしアジア的だなと思うものがある。中国の椅子のスタイルとかアームの付き方とかって結構特徴的じゃないですか。ある意味ニッチなフィーリングの人達がそういう方向に向かいはじめてるのかなってちょっと思ったんです。僕もそっち系好きで趣味なんですけど。

渡邉 へえー、気がつかなかった。

山田 で、日本人はそれをどう思うのかと考えたら、日本にはいままでなかったと意外と飛びついちゃうのかなって。もしかしたらこの「日本ブーム」「メイドインジャパンブーム」が、日本のものだけどもう少し世界を広げてアジアン的なものになっていって、日本人も趣向が変わっていくことになるのかもしれないな、と。でも送り手のもともとの発想としては、アジアの人達の生活スタイルに合わせるために差し出すというのがきっかけでそうなっていくんじゃないかなあって。最近、考えついたんですけど。

植原 なるほど。……取り入れますか?(笑)

渡邉 取り入れますか。いやでももう少し観察もしたいかなあ。

山田 茶器一つとっても、日本の茶文化と全然違うんで、いわゆる湯のみとかじゃなくてもっと小さいじゃないですか。そういうところだけでも、ね。中国に限らず香港もそうですけど、茶文化が重要ですごく大事にしているから、たとえばいまそれで岩手県の南部鉄器はすごく売れています。お茶がおいしくなるならと鉄瓶が買い求められているんですね。僕も家で使っているんですけど、たしかにお湯がまろやかになっておいしい。だから茶器も日本みたいなあんなに大きくなくて、小さいものがきっといいんじゃないかと思うんですよ。

渡邉 そうだね、中国茶の茶器は小さいもんね……、取り入れますか?

植原 はい(笑)。

山田 KIKOFの小さい中国茶器のようなものができる日がくるかもしれないですね(笑)。

 


 

 

 

※【KIGI_M_exhibition「キギの作品と、商品と、しごと。」展】
 
会場1:OFS gallery
会期:4月27日 (水) ~ 6月26日(日)
場所:東京都港区白金5-12-21
定休日:月・火曜日(祝日は営業)
時間:12:00〜21:00 (日曜日のみ19:00まで)
 

会場2:SFT GALLERY
会期:4月27日 (水) ~ 6月27日(月)
場所:東京都港区六本木7-22-2 国立新美術館 B1
定休日:火曜日
時間:10:00~18:00(金曜日のみ20:00まで) 
URL:https://www.souvenirfromtokyo.jp/gallery

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