2016年4月27日 (水) ~ 6月26日(日)
現在、OFSgalleryと国立新美術館内SFTギャラリーの2会場にて同時開催されておりますKIGI_M_exhibition「キギの作品と、商品と、しごと。」展。その関連企画として先日、method 山田遊さんをお迎えしてのトークショーが開催されました。
植原 いま、国立新美術館の地下にある「SFT GALLERY」でKIGIの展覧会をやっているんです。僕らは昨年末から『KIGI_M_001_private work』、『KIGI_M_002_product』、『KIGI_M_003_graphic』と、キギが行っている3つのクリエイティブの方向性をマガジンスタイルで編集した『KIGI_M』という作品集のシリーズを3冊出したんですが、今回の展示はそれに関連して『KIGI_M_exhibition』というタイトルにしています。で、その展示のきっかけを作ってくれたのが今日来てくださったmethodの山田遊くんです。
山田 みなさん、SFTの展示行きました? ぜひ行ってくださいね(笑)。
植原 僕らの展示に行くっていうよりは、まずは国立新美術館でMIYAKE ISSEY展かルノワール展を見て、そのあとで立ち寄ってもらえればいいなと。展示会場でも配布しているんですが、最近、渡邉良重さんオススメの「お散歩マップ」というのを作ったので、まずはみなさんに配りますね。
渡邉 このマップでは、恵比寿の駅から私達のお店「OUR FAVOURITE SHOP」のある白金に行って目黒に至るコースを紹介しています。私は恵比寿に住んでいるので実際によく行く素敵なお店ばかりを載せました。このルートで1日かけてまわると絶対楽しいし、ちょうどいい疲れ具合になるの。
植原 ゴールは目黒の「とんかつ とんき」っていうね(笑)。
山田 僕は自分で会社を始める前に3年くらい、このマップにある「ギャラリードゥポワソン」でギャラリーの立ち上げをしていたんです。植原さんと最初に会ったのもドゥポワソンですよね。
植原 遊くんがD-BROSに来たのが最初じゃない?
山田 そうでしたっけ? 僕は植原さんに接客をしたことを強く覚えているんですよね。
渡邉 接客もしていたの?
山田 ええ。そこで薗部悦子さんのジュエリーも取扱っていたんですが、いつの間にかパッケージを良重さんがデザインされていた。
渡邉 彼女の作品は、ギャラリードゥポワソンで見ていたんですけど、オランダのアーティストだろうってなぜか勝手に思い込んでいたんです。そしたらあとでたまたま薗部さんから手紙をもらって、絵本のようなカタログが作りたいっていう話から一緒に絵本を作ることになって。
山田 え、手紙が来たんですか?
渡邉 そう、その時はまだ彼女の名前を知らなかったんだけど、ジュエリーを見た瞬間に「あれ、これ知ってる!」って。日本の女性が作っていると知ってほんとにビックリしたんです。大好きなのでOFSにもジュエリーを置かせてもらっています。
山田 薗部さんのジュエリーはあまり日本人らしくないというか……、彼女はプロダクトデザインをすごく意識しながらジュエリーを作っているタイプなんですけど、日本の方って、ああいったあしらい方というかデザインの仕方をあまりしないんですよね。日本でも好きな方が多くいますけど、日本での知名度より海外の評価のほうが高いですね。
植原 感情的じゃないというか、わりと冷静というか、少し建築的というか。でもストーリーがあるんだよね。
山田 僕は、以前、ドゥポワソンのメルマガを書いていた時期があって、お店で薗部さんの個展をする時に、彼女のジュエリーのどこがいいかっていうのをすごく考えたことがあるんですね。で、わかったのは、石の指輪が特にいいんですけれど、ツメをあまり使っていないんです。ジュエリーって石をセッティングする時に基本的にはツメで留めて固定するんですが、そのツメはただ石を留めるっていう機能なだけで造形的なバランスでいうとムダっちゃムダなんです。でも薗部さんのリングの石は基本的にテンションセッティングというか、指輪の腕の部分の金属が戻るちからで支えている。ドイツのニーシングのものが有名ですけれど。すごく乱暴に言うと、せまいところをぐっと開いて、そこに石を入れて留めている。なのでムダがないんです。
渡邉 私もそのツメがないところ、その石の付き方がすごく好き。
山田 もう一つのいいところは、石の座がないんです。これも基本的には絶対あるものなんですけど。ムダがなく、それでいてちゃんと石が留まっている。それがすごくデザインとして評価できるところというか。
植原 ああ、それはわかってなかった。
山田 天然石とそうじゃないものって何が違うかというと温度が違うんですね、触ったら冷たいのが石なんです。薗部さんの指輪は座がないから、指輪をしているといつも石を感じるんです。
植原 へぇー!
山田 これ、すごくないですか! 指でいつも石を感じる。で、それを書いてメルマガを送って、その話をしつつ接客するようになったらすごく売れるようになったんです(笑)。
渡邉 なるほど。
植原 薗部さんはその点、わかってるんでしょう?
渡邉 もちろんでしょう?!
山田 いや、でも意外に作る側って意識はしてると思うけれど、感覚だけでやっていることもすごく多いんで、そこまで明快に言語化して組み立ててない場合があるかもしれないです。僕は左脳派なんで、そういったことをちまちまちまちまと考えますけど(笑)。
渡邉 私は最初に見た時に、どこかグラフィックデザインに近いなって感じたんです。それで、私がもしジュエリーをデザインするならこんなのを作りたかったなあって瞬間に思って、それでもう大好きになっちゃった。
山田 グラフィック的でもありますよね、板の使い方とか。
渡邉 それが「座がない」とか、そういうことなんだなあっていう気がした。
山田 ねぇ、いいじゃないですか、石をいつも感じてるなんてポエジーじゃないですか(笑)。いろいろ考えていったら、そういう結果にたどり着くっていうのがモノっておもしろいなって思うんです。
渡邉 なるほどー、そうやって考えて文章書くんだね(笑)。
植原 こないだ僕らが作っているKIKOFも書いてもらったもんね。
山田 「BEIGE,」っていうブランドのサイトに書きました。僕はそこで連載をしていて、いまみたいなことをちまちま言っているんですけれども。普段、そんなことを考えながら仕事している感じです。
植原 「BEIGE,」はファッションブランドだけど雑貨とかプロダクトも取扱っているの?
山田 一部取扱ってます。いまは洋服屋さんが生活雑貨とか食品も販売している時代ですしね。
植原 一時期、ファッションブランドができるたびに毎回なにかしら声をかけられていたでしょ?
山田 不思議なことにあんまり同業者がいないんですよね。ブックディレクターの幅くんとずっと会社をシェアしていたんですけど、ブックディレクターはあんなにいるのにバイヤーがいないのはおかしいなって思ってたんですけどね。
植原 バイヤーはメーカーにいたりするもんね。
山田 そうですね、基本的には社内にバイヤーがいるので、フリーランスのバイヤーさんって、あんまりいないんですかね。
渡邉 でもすごく需要がありそう。
山田 ぜひ、みなさんも目指してほしい。うちだけじゃ無理です(笑)。
渡邉 モノをしっかり知って、どこがいいのかっていうのをちゃんと見る目がないとなかなか難しいよね。
山田 一般のお客さんは見た瞬間に「コレ、いい!」とか、好き嫌いとか、そういう感覚でいいような気がしていて。で、それに対してお金を払ってまで買うのか買わないのか、安いとか高いとか……、それでいいと思うんですね。でも売る人というか、僕らバイヤーのように売るためにモノを買っている人達は、やっぱりそれだけじゃダメですよね。自分がいいと思ってバイイングするだけじゃなく、どういいのかっていうことをお客さんにちゃんと説明出来ないといけない。それをいつも訓練しているような気がするんです。バイヤーはセンスが決め手でしょとか、センスの商売だろうって言われるんですけど、そういう瞬間的なインスピレーションより、いかに自分らで咀嚼してお客さんにその魅力が伝えられるかという方が大事なんじゃないかっていう気がします。
■プロダクトデザインのお祭りミラノサローネ
植原 5月に、クリエイター「KIGI」としてミラノサローネに出展したんです。初めてなのでいろいろたいへんなことがあり、お金もかかり……。
山田 お金かかりますよね(笑)。
植原 コンパクトにすればいいのに、そのまま送ったから送料がすごい金額になっちゃったりね。
渡邉 向こうに着いた時に全部割れていても困るから用心のために、ってね。ちゃんと知っていたらもうちょっと抑えられたところを知らないがためにねぇ……。
山田 僕は今回行けなかったんですけど、反応はどうでしたか?
渡邉 小さいスペースだったんだけど、いい場所でほんとにたくさんのお客さんが来てくれて。
植原 30秒に一人が来るようなそんな感じだった。
山田 ロッサーナ・オルランディでしたよね? あそこはいい場所ですよね。
植原 素晴らしい窓があったんで、窓際にフラワーベースを並べて置いたりしてね。このフラワーベースはもう13年くらい作り続けているから知っている人もまあまあいたりして、これを見て入ってきてくれる人も多かった。フラワーベースに助けられた感じもしたね。
山田 SFTでも、このフラワーベースはリビングインテリアのカテゴリーのなかで売上がいつだって1位なんですよ。
渡邉 それはうれしいなあ。サローネでも結構売れましたね。みんななにかお土産を買っていきたいんだけど、いろいろまわるから荷物が重くなるじゃないですか。でも、これは軽くて薄いから、買っていくんだと思うんだけど。
植原 窓のすぐ手前にKIKOFのテーブルと椅子を置いて、食器を並べて。プロダクトだけでなく、いくつか作品も展示しました。あとポスターも飾ってね。
山田 ミラノサローネは、プロダクトデザインの文脈でいうと世界一のお祭りですからね。僕はデザインオタクなんで行かなくてもネットで日々チェックしていたりするんですけど、プロダクトデザインの流れとか傾向はやっぱりサローネが作っているんです。ファッションのほうが回転や流れが速いので、プロダクトデザインとかのトレンドはそのあとをフォローするという傾向にはあるんですけど。いま全体的には、シンプルに素材の扱いを極限まで突き詰めてそれを素直に出してくるっていう傾向がありますね。クラフト的とか工芸的といっちゃうとあれですけど、素材を素直に追求して、それをきちっとシンプルにあげる。そういう傾向はいまヨーロッパでは結構多く見られます。デコラティブなものも依然としてありますけれど、どっちかというといまは少数派になっていて、よりシンプルになっていると思うんです。レクサスの展示は、今回フォルマファンタズマっていうオランダで活動しているイタリアの2人組がやっていましたけど、思い切り工芸とか手仕事とか素材とかっていう文脈でやっていたと思うので、そういう流れは確実にプロダクトデザインのなかでもあるんだなあというのはすごく感じてますね。
渡邉 サローネでは、いいものもすごくあるし、そんなによくないものもいろいろあるんだけど、それをみんなが一生懸命に作って出して、すごく多くの人が見に来ているっていうなんかそのエネルギーとか、どんなものであれ人が一生懸命作っている、自分が考えたものを作り出しているっていうところが感じられて、なかなか人間はいいなあと思った。あと、なんていうか、日本人ってやっぱりちょっとシャイなんだなあって思ったの。向こうでは、デザインに興味がある人、まあまあの人、たまたま来たみたいな人と、いろんな人がいたんだけど、みんな反応の仕方がすごくよくて。「beautiful!」とか「amazing!」とかって、口先だけじゃなくて、本当に心からそう感じて言ってくれている感じがしたなあ。
植原 たしかに日本人はそういうふうに感じていても、気づかれないようにするようなところがあるよね。
渡邉 そういうことを感じる幅が大きいのかなって思った。
山田 2、3年前に出展した時に僕も思いました。ミラノサローネってごく一般の人達、じいちゃんばあちゃん子供達も見にくるようなイベントじゃないですか。デザインを学んでいる学生とか、新聞配達をしている人とかも来ていて、プロとか関係なく街全体が人で溢れていて。
植原 ほんと、街中がお祭りみたいだもんね。
山田 その時にいいなと思ったのは、仮に新聞配達員だろうが、なにしている人だろうが、「これがいい」っていうことをちゃんと言えることだなと思って。その人の解釈とか、センスがいいのかどうかはともかく、彼らは自分がいいって思ったら、いいって自己主張できるんですよね。良重さんもおっしゃってましたが、ストレートな反応が返ってくるのはすごくうれしいこと。日本で展示をすると「これはなんですか?」とまず訊かれる。自分がどう思ったかじゃなくて答えを求められる感じっていうのが日本ではすごく多くて。そういうこと以前に、「いいね!」とか、「俺はちょっと好きじゃない」とか言ってもらったほうが楽しいですよね。
渡邉 好きとかそういう気持ちをストレートに表現することとか、好きって思うことの訓練ができていそうだよね。
山田 それは感じますね。「これいいね」と言うのって、やっぱりこわいじゃないですか。僕も昔はこわかったんですよ、いまはもうそろそろ15年選手ですから、まあ6割くらいは言える感じでいますけど(笑)。最初はほんとこわくて。自分のなかでは、いいなとか、これは好きじゃないとか、そういうものはあったとしても、自分がプロとして仕事としてやる時にそれを言わなきゃいけないこわさのようなものがあって。でも、海外でイベントや展示やったりすると、外国人ってそういう意味では平気で言ってきたりして、そういったことに対しての蓄積があるというか、なんか違うなあって思ったりします。
(後編へつづく)
会場2:SFT GALLERY 会期:4月27日 (水) ~ 6月27日(月) 場所:東京都港区六本木7-22-2 国立新美術館 B1 定休日:火曜日 時間:10:00~18:00(金曜日のみ20:00まで) URL:https://www.souvenirfromtokyo.jp/gallery